③症状別対応法の例



(1) インフルエンザ



公演中止の事態をも招いてしまうインフルエンザなどの感染症。
かからないための特効薬はなく、日頃の行動・心がけがなによりも大事ですが、感染者がでてしまったら、現場でできること、気をつけることはどんなことでしょう。
十分な休養とバランスのとれた栄養管理、禁煙
⇨ウイルスが入ってきても発症しない免疫力を高めます。

手洗い・うがい・マスク・人混みを避ける
⇨ウイルスとの接触を最小限にします

適切な室温と湿度・換気
目安は、室温 20℃、湿度 50 ~ 60%
⇨ウイルスは寒冷乾燥したところを好むので加湿を忘れずに。ただし、湿気が高すぎるとダニ・カビが繁殖するので要注意。

予防接種
⇨100%予防できるわけではありませんが、発症しても症状が軽くてすみます。 接種後2週間から5ヶ月間程度、免疫がつくので、公演などの日程を勘案して接種しましょう。 費用は自由診療のため 2500~5000 円程度です。



かかってしまったら

 高熱や倦怠感、関節痛が主な症状です。重症にならなくても感染力はあるので、早めに対応しましょう。

【自分がかかってしまった時】

回復するための 3 つの治療とプラスα

1)体力・免疫力をあげる(悪化をおさえる)治療

十分な水分・栄養・睡眠を取って休養します。水分は好きなもの、スープなどでもよいです。
栄養価の高い食事(納豆・バナナ・ヨーグルト)、ココアやビタミン A・C・D・E などを多く含む食べ物が免疫力をあげます。

2)症状緩和の治療

熱・頭痛 / 関節痛などには解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)、
鼻汁・くしゃみなどに抗アレルギー剤、
咳・痰などに咳止め、去痰剤を使用することがあります。
自己判断で内服せず、医師に相談してください。
【注】
よく処方されるロキソニンやボルタレン、市販の風邪薬に入っているアセチルサリチル酸などは、インフルエンザ時は痙攣などの副作用を起こしてしまう可能性があるので飲んではいけません。
3)ウイルスの増加をおさえる治療

病院でインフルエンザの感染が確認されると抗インフルエンザ薬(吸入薬・内服薬)が処方されます。
抗インフルエンザ薬はウイルスの増加を抑える効果があり、発熱期間が短縮され、ウイルスの排出量も減少します。
熱が早く治まれば、無駄に体力を低下することも防げます。発症から48時間以上経過すると、あまり効果がでなくなります。
以前タミフルを内服後の異常行動が問題となりましたが、他のインフルエンザ薬でも起こる可能性があります。
また、解熱剤内服だけでも異常行動が確認されているため、発症から2日間は小児・未成年は一人にしないように気を付けましょう。
 うつさない

熱が下がった後も、まだ体の中のウイルスを排出しています。解熱後 2 日は人との接触を避けることが望まれます。
元気になったとしても、個室での稽古やマスクを着用して周りにうつさないよう配慮しましょう。
【近くに感染が疑われる人がいる場合】

1)ウイルスを体内にとりこまないようにする。
  ・適切な室温・湿度の管理とこまめな換気
  ・マスク着用
  ・手洗い、うがい
  ・バーやドアノブなど共有して使うものは拭き掃除

2)発症しない健康管理(ウイルスを取り込んでも発症させない免疫力)
  ・免疫力を高めるため、休養(睡眠)と栄養をしっかりとる

3)投薬での予防 ( 抗インフルエンザ薬予防投与 )
 どうしても発症を防ぎたい場合、抗インフルエンザ薬を予防として服用することもできます。
全額自己負担ですが、公演間近で感染が広がらないようにするためには必要があるかも知れません。
医師と相談してください(感染者が身近に発生したときだけ処方が可能です)。
スピードが肝心ですので、主役が発症したときに、相手役が服用するなど想定して予めカンパニー内で予防投与について検討しておくとよいでしょう。
費用は4500 ~ 6000 円程度かかります。
ノロウィルス対策も事前の準備が重要です。詳しくはこちら

(2) けいれん



けいれんは、全身にみられる場合と、体の一部にみられる場合とがあります。
頭のけが、脳卒中、てんかん、中毒、熱中症や、子どもでは発熱などによって起こることが多く、まれに重い病気が原因のときもあります。

症状(てんかん発作)

・突然意識がなくなり、全身がまずかたくつっぱったり、
次いで全身がガタガタと律動的にけいれんする
・呼吸困難となり、顔色が青く、
チアノーゼ(唇や皮膚が青~紫になる)がみられることが多い
・歯をくいしばったり白目をむくことがある
・尿や便を失禁する場合もある
・吐いたり口から泡をふくことがある
・けいれんが長引くと呼吸ができにくいので危険だが、だいたい 1~2 分、長くて 5 分くらいでおさまるのが普通
【注】
・名前を呼んだり 、揺り動かして刺激を与えない
・無理に押さえつけない
・けいれんの発作中に、奥歯の間に割り箸、手ぬぐいなどを入れない
手当

・衣服のボタンをはずし、楽に呼吸ができるようにする
・分泌物や嘔吐物で窒息の恐れがあるときは、
顔を横に向けて気道を確保する(図1)
・発作時には倒れて体を強く打つことが多いので、
周囲や身につけている危険物を除く。
全身、特に頭を強く打ってないかよく調べる
・保温する
・急いで医療機関に搬送、診断の唯一の手がかりになるのでポイントを正確に伝える(右記)
(図1)
【ポイント】
医師に伝える内容
・どんなけいれんが
・いつ、どんなときに
・どんなところで
・どうして
(どのようなことがあった後で)
・どんなふうに起こったか
・どのくらい続いたか
※〈動画撮影推奨〉

救急車がきた時には発作が治っているケースが多いため、どのような発作だったか伝える有効な手段になります。

(3) 過呼吸



精神的な不安によって過呼過多になり、手足や唇の痺れや動悸、目眩等の症状が起こる心身症のひとつです。
若い人、女性に多くみられます。

症状

・息苦しい
・呼吸が早くなる
・胸部の圧迫感や痛み
・動悸
・手足や唇の痺れ
・目眩
・頭がぼーっとする
・死の恐怖を感じる、(まれに)失神

手当

・呼吸の速さと深さを自分で意識的に調整すれば2~3分で自然に治まるので、まず落ち着かせる。
・息を吸うより吐く方に集中させ、ゆっくり吐かせる。
【注】
袋などを口に当てて呼吸させると、加減によっては酸素不足になるので、袋を当てるより呼吸を整えさせる。

(4) 熱中症



高温、多湿、風が弱い、輻射熱 ( 地面や壁などからの放射により伝わる熱 ) があるなどの環境では、体から外気への熱放散が減少し、汗の蒸発も不十分となり、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れるなど体温や体液の調整機能が破綻します。
これにより起きる 障害を熱中症といいます。
死に至る危険性のある病態ですが、予防法を知っていれば防ぐことができます。


【参考】
環境省
熱中症予防情報サイト
www.wbgt.env.go.jp


【注】
意識がないときは、
一次救命処置の手順により手当を行う
手当

・できるだけ早く風通しのよい日陰や冷房が効いている室内等に避難させる
・本人が楽な体位に。顔面が蒼白で脈が弱い場合は、足を高くする
・意識があり、吐き気や嘔吐などがなければ、水分補給をさせる。スポーツ飲料か、薄い食塩水などを飲ませる
・露出させた皮膚に水をかけて、うちわや扇風機などで扇ぐことにより体を冷ます。氷嚢などがあればそれを頚部、わきの下、大腿の付け根に当てて皮膚の直下を流れている血液を冷やす
・水分が補給できない、症状に改善が見られない、様子がおかしい、全身のけいれんがあるなど、手当の判断に迷う場合は、救急車をよぶ












引用:
以下のテキスト・図版:日本赤十字社『救急法講習』平成27年4月1日 11版、『救急法基礎講習』平成24年5月1日 3版より
公演救急ガイド-3.救急対応・症状別対応マニュアル
②外傷の手当て(2)骨折 (5)出血・鼻血、③症状別対応法の例 (2)けいれん (4) 熱中症