出演者・スタッフのいざというときのための団体保険

万が一のための “保険” というと、保険会社と契約して保険料を払うものをまずイメージされると思います。

しかし、日本では、皆保険制度といって、全員がなにかしらの公的保険である健康保険に加入しています。病院で保険証を提示すれば、治療費を割安でうけられるのも、この制度によるものですが、申請をしないと補償がうけられないものもあるので、知らなきゃ損をする、ということが起こります。 健康保険については、芸術家のくすり箱ウェブサイトにまとめていますので、そちらをご参照ください。

ここでは、芸術家が仕事として芸術活動をするなかで、怪我をしたり病気になったとき、出演者(傷病者)の負担をおさえる(=安心して医療にかかれる)ため、あるいは主催者の責務 ( 責任とは別) として、団体名義あるいは興業主催者として入る保険について注目してとりあげます。

保険会社によっていろいろな商品名をつけているので、ますます選ぶべき保険がわからないということも。ここでは、活動の形態や公演パターンから、保険の選び方を解説します。
あくまで、怪我や病気に対する補償を中心にしたものですので、興業ができなくなるリスクや、物損に対する保険(興行中止保険、損害賠償保険)とは別のものとなります。

・活動の形態からメインの保険を選ぶ
年間を通じた団体活動や
1日のイベントをカバーするなら

A

傷害保険
(普通傷害・レクレーション保険・施設入場者保険)

・怪我がおこった場合に通院、入院に対する補償
・通院日額○○円という基本だけでなく、治療費を補償(契約時の上限金額まで)するオプションもある
・対象や活動内容によって、普通傷害保険、レクレーション保険、施設入場者保険から選ぶ
公演ごと(リハーサルから本番まで)に
保険加入するなら

B

国内旅行保険

・遠路の移動や宿泊を伴わなくても長い日程を対象にするときには、この “旅行” 保険が該当
・リハーサルから本番までなど中長期をカバー
・芸術活動中に限らず移動中の怪我も補償
海外ツアーにいくなら

C

海外旅行保険

・海外ツアーの出発から帰宅まで
・怪我だけでなく病気の治療費も補償
海外から招へいするなら

D

逆海外旅行保険

・海外から招へいする出演者/スタッフの怪我病気を補償
(現地出発前に加入が必要)
・保険選びの例
メインの保険の種類がわかったら、内容の基本パターンから必要ないものを省いたり、オプションで必要とするものを追加するなど、カスタマイズできる余地があるのがこれらの団体保険の特徴です。

国内公演

□ある作品の国内公演のリハーサルから千秋楽までの期間におこった怪我に対して、入院・通院を日額で補償
(メンバーは公演のために集められ、出演料が発生するパターン)
→ B(国内旅行保険……宿泊を伴わなくても、日数をまたぐ場合は国内旅行保険の扱い)

□1 ~ 2 日程度の公演で、集合から解散までの間におこった怪我にたいして入院・通院を日額で補償 (出演者に生業に相当するほどの単発のギャラが発生しないイベントなど)
→ A(傷害保険-行事参加者保険)

□海外から招へいする出演者の怪我および疾病に対する補償
→ D(逆海外旅行保険)

国内での恒常的な活動 (公演含む)

□通年活動する団体(メンバーが固定)の通常の活動(稽古や本番期間)でおこる怪我に対して通院、入院などを補償
→ A(傷害保険-普通傷害保険 : 基本は日額の所定金額補償だがオプションで医療費相応(契約時の上限金額まで) 補償のタイプがある

□ワイヤーアクションで落下して、頭を打って入通院し、障害が残った場合の通院入院費のほか、後遺症に対する補償
→ B (国内旅行保険)

□公演に関連するワークショップ参加者が怪我をしたときの通院入院を補償
→ A (傷害保険-行事参加者保険 or 施設入場者保険)

海外公演

以下がセットになっている C「海外旅行保険」商品が多いですが、「携行品の補償ははずす」など、必要に応じた 内容 ( 保険料 ) にする工夫が可能です。

(例)
・海外で具合が悪くなった時に、日本語で相談できるサービスがある
・海外公演時、怪我・病気の治療を日本語で受けられる
・海外公演で怪我・病気の治療をうけた際、治療費を補償する
・海外公演で怪我・病気をして治療費を現地払いしなくてよい(キャッシュレス)
・海外公演で怪我・病気をした際、日本から現地へ家族がいく費用を補償する
・海外で携行品が盗難にあった場合の補償がある

★保険会社によって、同じような名前の保険でも「補償の対象にならないもの」に違いがあります。

別会社の保険で、補償されていたからといって、同じく補償されるとは限りませんので、加入のときに、「対象にならないもの」や「手続き方法」を確認することが重要です。

(例)
・保険金受け取りのための診断書代は補てんされるか
・事故が仕事中のみか移動中も含むか
・手続きは本人がしなければならないか(事務方が代行できるか)など

★保険を選ぶときは、保険金が “ 支払われないもの ” に注目!

傷害保険で保険金が支払われないものの例

× 公演中に怪我をして歩けない人が病院や自宅へ移動するためのタクシー代
  メモ 個人の所得税の医療費控除には該当するので、領収書は保管!
  メモ 入院・退院時のみ治療費として対象になる(オプション)ものもあり。
× リハーサル期間中に、持病の腰痛が悪化して稽古場近くの病院にいった費用
  メモ 傷害保険は、急激・偶然・外来の事故による怪我が対象になるので、慢性的な症状での治療は対象外。
      病気、疲労骨折、腰椎ヘルニア、妊娠・出産・早産などは保険金が支払われません。
× 公演中に痛めた足の治療のため、鍼灸院にいった治療費
  メモ 鍼灸院は通院保険金の対象になりません。
  メモ 病院、クリニック、または接骨院 ( 整骨院 ) が対象になります。
      医師が必要と認めた鍼灸治療は、個人の所得税の医療費控除には該当するので、領収書は保管!

△ カード付帯海外旅行保険は、海外での高額な治療費に対応できないことがあります。 補償内容を確かめておきましょう。










労災保険について
労災保険は、雇われている人を守るための公的保険です。
雇っている会社が保険料を払い、「仕事上の怪我、病気」の治療費は国が負担するのです。
労災保険適用となると、「健康保険」(健康保険証を提示して、3 割ほどの負担分のみ払う)の制度は使えず、
全額が国からの補助金でまかなわれます。

会社が所轄の労働基準監督署に届け出をして、指定の用紙を病院に持っていく必要があるため、いったん
全額立て替え払いになることがあります。

芸術活動で問題となるのが、雇用関係があるか、ということです。
定期給与が支払われる関係ならば、仕事上の怪我=労災適用は判断しやすいですが、ゲストとして出演
する契約であったり、所属団体の公演であっても公演ごとの出演契約(報酬)である場合は、適用は困難
でした。

しかし、最近新たな見解がでています。実際に、労災の補償をうけるのがよいかどうか、判断しにくい
こともはありますが、芸術家の創造活動が、契約形態にかかわらず職業として認められ、保障を受けら
れるという流れです(続きは芸団協ウェブサイトで)。